「賀川とマ元帥(マッカーサー元帥)」の転載 (「神はわが牧者より」)

1960年12月8日に発刊された「神はわが牧者 -賀川豊彦の生涯とその事業-」という本があります(田中芳三編・クリスチャン・グラフ社刊)。

1960年4月23日に賀川豊彦氏は帰天しており、その年の12月に発刊されたことがわかります。
多くの賀川豊彦氏の友人知人が寄稿しており、氏の人となりがわかる貴重な資料となっています。

その中で、編者の田中氏が寄稿した文章に「賀川とマ元帥(マッカーサー元帥)」という一文があります。
これが大変興味深い文章で、賀川豊彦氏が終戦後1ヶ月ほどして、マッカーサー元帥に請われて会談をした様子が書かれています。非常に臨場感ある文章ですが、伝聞調の箇所があるので、田中氏が同席したわけではなさそうですが、賀川氏から直接話を聞いて書き留めたのではないかと推測されます。
「神はわが牧者」という書籍が、絶版でなかなか手に入らないものであり、かつ、内容的にも重要と思われるため、ここにその一文を転載させていただきます。

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随想「賀川とマ元帥」田中芳三

時は昭和二十年、太平洋戦争日本の無条件降伏に終って連合軍が日本の各地に乗りこみ、司令官マックァーサー元帥も帝都東京に飛来、君臨した9月21日のこと(天皇とマ元帥会見は9月27日)。
場所は東京宮城のお豪端にある第一生命ビル八階の連合軍司令官室の一室、
賀川とマ元帥の二人の人物は向い合って椅子に腰かけた。
マ元帥は「日本の占領政策如何」即ち天皇制をどうすればよいか、と色々の例をあげて賀川に尋ねた。それは連合軍各国より、また自分の部下将兵より、やかましく天皇制廃止論が叫ばれていたからである。賀川には一つのくせがあつた。それは緊張すると右手で左手の指をきつく握りしめ、斜め下に視線をやり、こめかみをピリピリとさすことであつた。今まで一声も出さず、だまってマ元帥の言うことを聞いていた賀川は、その緊張極に達し、椅子からパッと立ち上つた。その何ともいえない威厳につられ、マ元帥もパッと立ち上った。立ち上ったまま向い合った二人の人物
「マ元帥閣下、古今東西、世界の歴史をひもといて、未だかつて敵国に無血上陸した、という歴史がありますか? 日本国も天皇の詔勅が下るまで、全国民が貴官と貴官の将兵に向って、銃口を向けていたのです。それがひとたび陛下の『太平を万世に開かんために、耐えがたきを耐え、朕はここに終戦を宣す』という一言葉によつて、貴官と貴官の将兵は無血上陸出来たのです。」
“我が国の運命ここに決す”と考えた賀川は、必死の形相でとうとうとマ元帥に向かってうったえた。その語る賀川の英語は必ずしも上手ではなかったであろう。殊に神戸新川の貧民窟生活中に、暴漢に襲われ、前歯三本を折られているため、その発音も不明瞭で聞きとりにくいものがあつたであろう。しかしマ元帥もさすがは世界の名将である。“日本の将来と占領政策について”の意見を、日本の多くの政治家や、指導者たちには誰にも聞こうとせず、ただ一人の宗教家“カガワ”を特に招いたのである。(最初の人物)
「カガワ先生、よくわかりました」とマ元帥はいきなり自分の大きな両手で、賀川の両手をはさむようにして、きつく握りしめた。その両眼には熱いものがこみあげていたという。
マ元帥は続けて賀川に聞いた、「何か他に望むことはないか」。即ち今日の記念に何かお土産をあげよう、と言うのである。この時の賀川の答えはまたふるっていた。
「マ元帥閣下、このまま日本人を放つておけば、一千万人の餓死者が出ます、食糧を送って下さい。ついでに医薬も送つて下さい。」とうつたえた。マ元帥は「よくわかりました、私の国の船で、フィリッピンにある米を運びましょう。薬も届けましょう。」
会見を終つた二巨人、普通欧米人の別れは、“サンキュウ”と言って握手をすれば、それでしまいだけれど、この時占領軍司令官マ元帥は、一敗戦国民カガワと共にエレベーターに乗り、ビルの出口まで敬愛の情をうちにこめつつ賀川を送り出した。
その頃日本の各新聞は、「一千万人の餓死者が出る」とジャンジャン書きたてていたが、餓死者も出ず、天皇制も護持されている。
(転載終了)

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戦後、マッカーサー元帥と、一民間人の賀川氏が会談をし、上記のような内容であったことは大変興味深いところです。

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